(2)気候変動が北海道に及ぼす影響 ~ 観光・食・生活環境を中心に ~
独立行政法人 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所環境保全部 水環境保全グループ 主査(気候変動) 鈴木 啓明 様
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まず、気候変動の影響ですが、こちらは世界の平均気温について示した図です。これまでの観測によって、世界の平均気温が既に上昇しつつあることがわかっており、将来については、観測をよく再現するモデルシミュレーションによる予測が示されています。ここでは、今後温暖化対策をとらない「4℃上昇シナリオ」の場合には気温がどんどん上昇し、およそ5℃、最大5.7℃上昇という数字もありますが、このような上昇を示す予測があります。一方、パリ協定では産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑える目標、さらに1.5℃未満に抑えるという2つの目標を掲げていますが、このうち2℃未満目標を達成した場合を「2℃上昇シナリオ」として青い線で示しています。この図から、今後の世界での温暖化対策、脱炭素の施策をどれだけ講じるかによって、将来が大きく変わってくることがわかります。
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ここからは、道総研で行った、北海道に即した研究成果を二つご紹介します。一つ目は夏の熱中症に厳重警戒すべき日数の変化です。このまま温暖化が進行した場合(4℃上昇シナリオ)に、7月・8月の熱中症に厳重警戒すべき日数がどのように変化するのかを、暑さ指数(WBGT)を指標として示したのがこちらの図です。
2024年前後の北海道の4地点のうち、例えば札幌ではオレンジ色の「厳重警戒」および赤色の「危険」の日数が10日前後に対して、その60年後の2084年前後には、この日数が32日前後、およそ3倍に増加すると予測されています。7月・8月、合わせて62日のうち、半分以上がこうした厳重警戒以上の日数に相当することになります。
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除雪は冬では大変な作業でもありますので、負担が減って助かるという側面もあるかもしれません。一方で除雪を生業とする方には、収入が減少する原因となり、作業員や熟練者を保つことが難しくなり、技術が喪失する原因となるとも考えられます。
一方、平均的な雪は減っても、ドカ雪は必ずしも減らないという予測もあります。2022年には全道的にこうしたドカ雪が顕著で、札幌でも交通障害などが発生したのも記憶に新しいところです。平均的には雪が減り、除雪の作業員や熟練者が減少しているなかで、ひとたびドカ雪が発生すると、交通障害等が長期化してしまうことが考えられます。このようなドミノ倒しのような変化も考えられる、ということを研究で示してきました。
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また雪については、さっぽろ雪まつりの将来影響について示します。現在、札幌周辺は緑色で示したように、30センチから60センチ程度の積雪がありますが、21世紀末になると周辺の雪がなくなり、その周囲の離れたところから雪を運ぶため、採雪費が増加すると予測されています。これは21世紀末の予測ということで、まだ遠いことのように思われるかもしれませんが、札幌では実際に雪不足の年があり、また昨冬には2月に季節外れの高温で雪や氷が融けることも生じています。近年の雪不足も一因として、2027年から開催方法の変更が検討されることが報道されました。雪の変化も遠い先の話ではなく、差し迫ったこととして捉える動きがあることがわかります。雪の変化はスキー場にも及ぶと考えられます。スキー場の雪の減少は北海道以外でも生じており、本州の方がより切実な問題である場所も多いことから、北海道への需要は相対的に高まる可能性もありますが、これまでのような雪質はなかなか楽しめなくなることも予測されています。
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続いて食への影響です。ここでは農作物の収量や品質がどのように変わるのかの予測結果を紹介します。水稲(米)については量、質ともにプラスの影響があると予測されていますが、多くの作物では、特に品質は、マイナスの影響も予測されるものが多く、ジャガイモは量・質ともにマイナスの影響が予測されます。また昨年2023年は記録的な猛暑により、これらの作物のほとんどで、生育障害などマイナスの影響が報告されました。
農作物の他、畜産にも影響が現れ、生乳の生産量の低下や、牛や豚の死亡数の増加なども報告されました。このように、今までのやり方が難しくなってきているという面がある一方で、今までは涼しくて栽培が難しかった、本州で栽培していた作物が北海道で導入ができるようになっている一面もあります。今までとはやり方を変えていくことが求められてきています。
輸入品も気候変動の影響を受けます。例えばコーヒーは、世界の中でも限られた気象条件下で栽培されていますが、近年、温暖化などによってその生産量が減少しつつあり、2050年にかけてコーヒーを今のように飲むことは難しくなることが懸念され、コーヒー2050年問題と言われています。この例のように、北海道外から輸入するものについても、影響が予測されます。
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水産物では、様々な水産物について資源量の減少が報告されています。観測動向については数十年の海洋環境の変化なども関係し、全てが気候変動によるものとは言い切れませんが、シミュレーションによる数十年先の予測でも、ここで示したような北海道の様々な代表的な水産物について、マイナスの影響が予測されています。
一方、プラスに働く新たに取れるようになる水産物もあり、例えばブリが代表的なものです。このように、水産物についても新たに取れるものを生かしていくことが考えられますが、実際には今まで食べる習慣のなかったものを取り入れていくには、啓発や加工技術の普及に時間がかかることになり、どう対応するかが課題となります。
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次に、衛生環境への影響です。大雨による災害は、ゴミの発生や病原菌の拡散など、衛生面の問題に繋がる場合もあります。気温の上昇による衛生の影響では、例えば食中毒警報の発令の基準の一つに「日最高気温28℃以上が予想される」という基準があります。今までの北海道では、この基準に達さない日も多かったのが、気温が上がっていくと超える日が多くなり、食中毒が起こりやすくなると考えられます。感染症では、デング熱等を媒介するヒトスジシマカの生息域の拡大が2010年代に問題となり、青森県まで生息域が北上しています。今後の気温上昇とともに、北海道でも生育が拡大する可能性があります。このような、感染症を媒介するような生物の侵入にも注意が必要です。
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影響の紹介の最後、暑熱や熱中症についてですが、グラフは年ごとの北海道の熱中症救急搬送者数を示したもので、2021年や2023年は北海道だけでも2000人、3000人と人数が増加しています。そのうち約半数が住居で発生し、住居以外が残り半数を占めています。また、札幌市以外の地方部のほうが、札幌市内よりも人口当たりの熱中症搬送者数が多く、要因として、地方部で高齢化率がより高いことが考えられます。本日、お集まりの皆様方の仕事には、熱を扱う、直射日光が当たる、気温差の大きいなど、特に熱中症に注意をする仕事に就いている方も多いかと思います。お客様も従業員も守るため、暑さの対策が来夏、この先の夏にも注意が必要になるかと思います。仕事場の熱中症対策はホームページでも紹介されており、私が見た中では、厚生労働省のホームページではイラストも交えてわかりやすく紹介されていますので、参考になると思います。
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まずは脱炭素についてですが、私達の研究では北海道の暑さの影響も、脱炭素をするかしないかで大きく変わることを示した結果があります。図では、2024年、2084年とその前後も含めて比較をしますと、熱中症に警戒すべき日数が1994年から2084年にかけての90年あたり、28日増加するという数字が示されています。
ただし、これは温暖化が最も進んだ場合の「4℃上昇シナリオ」で想定されるもので、パリ協定の2℃未満目標を達成した場合である「2℃上昇シナリオ」では、今までよりは熱中症に厳重警戒すべき日数は増加するのですが、増加のペースは半分弱に抑えられます。脱炭素の有無が、将来世代の道民の生活にも大きく影響することを示しており、対策を取ろうと考えるきっかけにして頂ければと思います。
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一方、図でも示したように、熱中症をもたらすような暑さの進行は、今後一定程度は避けられないことも事実です。そこで緩和とともに適応の必要がある、ということもご紹介したいと思います。例えば、暑さに伴う熱中症リスクの増加への適応として、暑さ指数(WBGT)を確認する・測定することが、すぐにできる対策として挙げられます。
本日、暑さ指数を計測する機械を持ってきていますが、これは研究用の精密なもので、2万円程度と高いものですが、簡易的な把握であれば、家電量販店で1000円前後から入手できるものもあります。まずは測ってみないと気がつかないことも多いと思いますので、皆様の安全のため、対策を取るきっかけにして頂ければと思います。
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最後のスライドです。北海道では、今後の持続可能性という点で、各地域、そして事業所で様々な対応が求められ、変化が求められる状況にあります。そうした中で、気候変動への緩和・脱炭素と適応についても、人口減少、担い手の減少、インフラの老朽化などの問題と別々に考えるのではなく、同時を解決できるような良いアイディア、知恵が求められています。
私達の研究所でも、北海道内の様々な課題を同時に解決できるような提案ができないかという視点で、研究に取り組んでいます。
本日お集まりの皆様の中では様々な業種の皆様がお集まりと思いますが、業種などの垣根を越え、持続可能な北海道、地域社会を作っていけるよう、できることを一緒に考え、取り組んでいければと思います。
以上で私からのお話を終わらせていただきます。ありがとうございました。